国外の研究状況(ワシントン大学(今井教授)の研究状況)

公開:2022年12月15日
国外の研究状況(ワシントン大学(今井教授)の研究状況)

ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、NMN)は、老化を食い止めるためのカギになるとして、国内外で大注目の物質です。
中でも、NMNが老化をコントロールしているらしいということを世界で初めて発見したのは、ワシントン大学の今井教授でした。これまでに、一体どのようなことがわかっているのでしょうか?

1.サーチュイン遺伝子が老化に関わることを発見

今井教授は、NMNについて研究をすすめる中で、サーチュイン遺伝子が老化と密接に関わっていることを発見しました。(引用元:Cell Metab『Sirt1 extends life span and delays aging in mice through the regulation of Nk2 homeobox 1 in the DMH and LH』より)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24011076/

サーチュイン遺伝子自体は、以前に別の研究者が見つけていたのですが、はっきりとした役割はわかっていませんでした。サーチュイン遺伝子の活性化により合成されるタンパク質をサーチュインといいますが、今井教授は、サーチュインがNADを使って染色体を強く働かせたり、逆に働かないようにしたりすることで、酵母の寿命が変わることを明らかにしました。サーチュインが老化を遅らせ、寿命をコントロールする酵素というわけです。

サーチュインが働く(活性化する)ためには、NADが必要です。NADは、酵素の働きを助ける物質で「補酵素」と呼ばれ、NMNから作られます。サーチュインの活性化だけでなく、細胞がエネルギーを作り出すときにもNADが使われます。
そこで今井教授は、サーチュインの活性がエネルギー代謝の状態と関連しているということに気がつきました。代謝がよくなるということは、糖や脂質などの分解がすすみやすくなるということです。血糖値を下げたり、脂肪を分解して肥満を防いだりといった効果が期待されます。

2.脳が老化をコントロールしている

今井教授の研究によると、NADやサーチュイン遺伝子は、脳の視床下部という部位で最も活発に働いていることがわかりました。視床下部と体のさまざまな部位がコミュニケーションをとりながら、NADの合成を増やし、サーチュイン遺伝子を活性化させるかどうかを判断しているのです。(引用元:Nat Commun 『Systemic regulation of mammalian ageing and longevity by brain sirtuins』より)
https://www.nature.com/articles/ncomms5211

視床下部と特に関連の強い部位は、内臓脂肪ではないかと考えられています。
もともと、カロリー制限をしたマウスでは老化が遅れ寿命が伸びるとわかっていました。今井教授がおこなったのは、サーチュインを人為的に強く働かせたマウス(BRASTOマウス)でカロリー制限をおこない、脳内がどのように変わるかを観察する実験です。その結果、単にカロリー制限をしたマウスと比べると、BRASTOマウスは飢餓状態でも活発に活動することができ、脳内の視床下部が活性化していることがわかりました。(引用元:J Neurosci 『Sirt1 promotes the central adaptive response to diet restriction through activation of the dorsomedial and lateral nuclei of the hypothalamus』より)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2922851/

視床下部というのは、ホルモンの分泌や体温調節、睡眠、食事など生きるために必要な機能を調整する部位です。視床下部は体のあらゆる部位と連絡を取ることができますが、老化のコントロールにおいては、脂肪細胞との関係が深いことがわかりました。
カロリー制限をすると、視床下部のNAD量が減少します。NADが減ったことを察知すると、脂肪細胞から「NADを作れ」という命令が飛んできて、NADの合成量が増えサーチュインの活性が高まるという流れです。「少しぽっちゃりしているくらいが長生きする」などといわれることもありますが、脂肪細胞が老化と関連しているので、間違いではないのかもしれません。

3.NMN摂取による体の変化とは

NADやサーチュイン遺伝子が老化の進行を食い止めるという今井教授の研究についてお伝えしましたが、実際にNMNを摂取するとどういった効果が得られるのでしょうか。

3-1.糖尿病の予防

今井教授が2021年に発表した研究によると、NMNを摂取することで糖尿病の予防効果が期待されます。(引用元:Science 『Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women』より)
https://www.science.org/doi/abs/10.1126/science.abe9985

研究では、肥満で糖尿病予備軍と診断されている閉経後の女性を対象に、10週間NMNを摂取させたところ、インスリン感受性の改善がみられました。この結果は、体重を10%減らしたときに得られる効果と同等だそうです。
糖尿病予備軍の方は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなっている(インスリン感受性が低下している)ことがわかっています。NMN摂取によってインスリン感受性が改善されることで、インスリンの効果が発揮されやすくなって血糖値が下がり、糖尿病の予防に繋がるのです。

3-2.老化にあらがう変化も

NMNを実際にマウスに長期間投与したとき、さまざまなアンチエイジング効果が見られました。(引用元:Cell Metab 『Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decline in Mice』より)
https://www.cell.com/cell-metabolism/pdfExtended/S1550-4131(16)30495-8#:~:text=conducted%20a%2012%2Dmonth%2Dlong,mice%20without%20any%20obvious%20toxicity.

NMNを摂取していない同じ年齢のマウスを比較して、視力がよく、食事量が多いにも関わらず肥満が抑えられ、骨密度が維持されたのです。
遺伝子は、加齢によって飾りのつき方が変わります。この飾りにより、骨格筋や脂肪組織など体のあらゆる部分が遺伝子レベルで老化します。今井教授は、NMNを摂取させることで、マウスが遺伝子レベルで若返ることを証明しました。

4.まとめ

国内外で注目されている「NMN」は、アンチエイジングや若返りの鍵となる成分です。今回は、NMNについて世界をリードしている研究者の1人である今井教授の発見についてご紹介しました。
老化を食い止めたい、老化に関連した症状の進行を抑えたいという方は、NMNを取り入れてみてはいかがでしょうか。

この記事を執筆した専門家

薬剤師中山アユム