国外の研究状況(ハーバード大学(シンクレア教授)の研究状況)

公開:2023年02月06日
国外の研究状況(ハーバード大学(シンクレア教授)の研究状況)

ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、NMN)は、若返りに関与する物質として、国内外で大注目の物質です。
今回は、NMNについて世界をリードしている研究者の1人、ハーバード大学のデビッド・A・シンクレア教授の研究内容についてご紹介します。

1.ハーバード大学シンクレア教授の研究

シンクレア教授は、どのような研究成果を出しているのでしょうか。

1-1.空腹がアンチエイジングのカギ!?

シンクレア教授は、食事制限がサーチュイン遺伝子やNADの経路を活発にし、寿命を延ばすことを発見しました。(引用元:Cell 『Nutrient-Sensitive Mitochondrial NAD+ Levels Dictate Cell Survival』より)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867407009737

遺伝子に傷がつくと、細胞の中にあるNADの量が減って細胞が死んでしまうことがわかっていました。細胞の中には「ミトコンドリア」という小さな器官があり、そこから細胞を死に導く物質(PARP-1)が流出して、細胞が死んでしまうのです。
動物の細胞内でNADを作るのに必要な物質として、NAMPTという酵素があります。シンクレア教授は、マウスを48時間絶食させて、肝臓でNAMPTの量がどう変化するか調べました。すると、細胞内のNAMPTとNADの濃度が2倍近く上がっているという結果が得られたのです。
さらに、NAMPTの濃度が高い細胞は、細胞の死をつかさどるPARP-1への抵抗力も高く、この経路にはサーチュインも関わっていました。

サーチュイン遺伝子は、通常はスイッチがオフの状態になっています。しかし、食事制限でストレスがかかると、NAMPTの量を増やし、細胞死をもたらすPARP-1への抵抗力を高めたり、サーチュイン遺伝子のスイッチを入れたりするのです。サーチュイン遺伝子のスイッチが入れば、老化をコントロールすることができます。

1-2.老化と若返りのメカニズムを解明

シンクレア教授は、サーチュインが老化を抑え、さらに細胞を若返らせるメカニズムについてまとめています。(引用元:Crit Rev Biochem Mol Biol 『Epigenetic changes during aging and their reprogramming potential』より)
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10409238.2019.1570075

遺伝子は長いヒモのような作りをしており、丸いタンパク質にぎゅっと絡みついている部分と、ゆるくほどけている部分があります。丸いタンパク質に絡みついている部分は、遺伝子の情報を読み取ることができません。タンパク質に飾りがつくと、遺伝子がゆるくほどけて、情報を読み取れるようになります。

この仕組みは「エピジェネティック修飾」と呼ばれるものです。老化によってゆるくほどけている部分が増えることで、遺伝情報の現れ方が変化して老化が生じます。

シンクレア教授は、「サーチュイン遺伝子」が加齢と共に減少することで、遺伝子のエピジェネティック修飾が起こること、また、サーチュイン遺伝子を活発に働かせることで細胞レベルでの若返りが起こることを発見しました。

2.NMN摂取による体の変化とは

NMNやNAD、サーチュイン遺伝子に関するシンクレア教授の研究についてお伝えしましたが、実際にNMNを摂取するとどういった効果が得られるのでしょうか。

2-1.視力が改善

シンクレア教授は、網膜剥離を起こしたマウスにNMNを投与することで、神経細胞が死ぬのを抑えられることを発見し、2020年に発表しました。(引用元:Aging 『Neuroprotective effects and mechanisms of action of nicotinamide mononucleotide (NMN) in a photoreceptor degenerative model of retinal detachment』より)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33373320/

網膜には、光を感じるセンサー(視細胞)がついています。網膜剥離は、網膜が剥がれかけている状態で、放置すると酸化ストレスによって視細胞がダメージを受け、視力の低下や視野欠損(視界の一部が見えなくなる)、失明を起こす可能性のある病気です。
シンクレア教授は、網膜剥離を起こしてから24時間以内にNMNを投与して、網膜がどのように変わるか調べました。NMNを投与したマウスでは、投与しなかったマウスと比べて網膜の酸化ストレスレベルが激減し、網膜の厚みが維持されていました。また、NADの濃度が上昇し、サーチュインの量も増えていたことがわかったのです。NMNを投与していないマウスでは、こうした変化は起きていませんでした。

これまで、「一度低下した視力を戻すのは難しい」というのが常識とされてきました。ですが、シンクレア教授の発見によって、視力の回復の可能性が出てきたといえます。

2-2.認知機能の向上

シンクレア教授が2019年に発表した研究では、NMNを投与したマウスで認知機能の向上がみられました。

認知機能障害を起こす原因の1つとして、血管の障害があります。加齢とともに動脈硬化が進行する・血管が狭くなるなど、血管のダメージが蓄積し、血流が悪くなることが知られています。シンクレア教授の研究によると、NMNは血管を広げて脳の血流を増加させ、認知機能を向上させるようです。(引用元:Redox Biol 『Nicotinamide mononucleotide (NMN) supplementation rescues cerebromicrovascular endothelial function and neurovascular coupling responses and improves cognitive function in aged mice』より)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31015147/

脳の血流障害が原因の病気として、「脳血管性認知症」があります。NMNが認知症の対策に応用できる日が来るかもしれません。

3.まとめ

NMNの研究で世界をリードしているシンクレア教授の研究内容についてご紹介しました。
空腹によって、アンチエイジングをつかさどる「サーチュイン遺伝子」が活発になります。また、サーチュインの働きによって遺伝子の飾りが変化し、細胞レベルでの若返りが起こることもわかりました。
サーチュインの働きに必要なNMNを摂取することで、視力の改善や認知機能の向上といった効果が得られる可能性もわかってきています。さまざまな若返り機能が期待されるNMN、興味を持った方は試してみてはいかがでしょうか。

この記事を執筆した専門家

薬剤師中山アユム